grace
10代の頃、故郷青森で、部屋の窓辺から夕暮れを毎日眺めていた。その情景に浮かぶ音楽を作ろうとした時から僕は作曲を始めた。
graceはここから始まる「夕暮れ三部作」の一枚目。まずは故郷をテーマにした。
青森に帰り、レコーダーを片手に環境音を録音して歩いたことを覚えている。この頃は4トラックのMTRを使っていて、テイクを重ねることが出来ず、サンプラーに一つ一つ楽器や歌を録音し、自分の音を一度サンプリングしてから再構築するという手間のかかる手法で制作していた。
まるで自分の書いた文章を英語に翻訳して、その翻訳をさらに日本語に書き直すような作業。
そのアナログなやり方がこのアルバムの独特な郷愁を含んだサウンドの成り立ちとなっているように、今となれば思う。
歌はJanis crunch、aspidistrafly。この頃出会ったばかりのアーティストに参加してもらった。
願わくば永く残るアルバムを作りたいと思い制作していた。「arne」という曲は何年か後に写真家・奥山由之くんによりMVが作られ、「lamp」という曲は後にnujabesさんがビートをつけて、新しく生まれ変わり僕の代表曲になる。
発売から10年を経てアナログ・レコード盤をリリースしたいとレコード店から連絡があったのは、感慨深い出来事だった。そしてこのアルバムはレコードになったことで完成したと言える。
リマスタリングは田辺玄が担当。彼は、このアルバムが発売されていた当時、タワーレコード新宿店・ニューエイジコーナーの試聴機で聴いていたと話していた。その後、二人でorbeとしてgraceを担当してくれたバイヤーさんに挨拶に行くことになるとは、この時は誰も知らない。
haruka nakamura