スティルライフⅡ
「スティルライフ」が2020年の春に発売され、夏が過ぎ、秋となった。
この一年は世界の人々にとって、生活というものと向き合った年になったように思う。
大切にしている星野道夫さんの言葉がある。
「Life is what happens to you while you are making other plans.
(人生とは、何かを計画している時に起きてしまう別の出来事)」
スティルライフを制作していた新年には、まさかこんな未来が待っているなんて思いもよらなかった。
あの時、たくさんのミュート・ピアノを録音した。
当初は一枚だけの予定だったので、制作も後半になると、どの曲を選ぶかとても悩んだ。
結果的には捨てるべき曲がほとんど見つからず、ついに、二枚分けようと、スティルライフ・シリーズにしようと心を決めた。
ピアノソロも初めてで、ミュート・ピアノという一般には馴染みのないもので、このようなシリーズ作品をリリースしたこともない。この作品のためにレーベルも立ち上げ、全てが初挑戦だった。
そして、秋や冬に似合う装いの曲を残しておくのはさらに勇気が必要だった。
そんな翳りのある曲たちこそ、この音楽の本来の姿だから。
大切な曲たちを、ある意志を持ち一年の終わりまで残しておいたのだ。
この激動の一年の終わりを、静かに迎えるために。
慈しみを携えて。
画家・牧野伊三夫さんがスティルライフを毎日聴いていると連絡をくださり、今回初めて尊敬する牧野さんのお力を借りてスティルライフ冊子を作れたことをとても嬉しく思う。僕はずっと牧野さんと何かを作ってみたかったから。
そして「生活と静物画」においてスティルライフに言葉を添えられる、これほど相応しい人物は他には思い浮かばなかった。
ジャケットにもアイデアが必要だった。
スティルライフ1のジャケットは制作期間中にポラロイドカメラで撮影した写真だが、あの期間だけにあった特別な光のようなものがあるらしく、2のジャケット用にと新しく撮ってもうまくいかない。
そこで、1の表紙のポラロイドに映されていた祖父の静物画をクローズアップして、線画にすることを思いついた。
背表紙や中の写真も、全てそのアイデアで統一することが出来た。
実現してくれたデザイナーのtakahisa suzukiさんに感謝したい。
彼はスティルライフもHPも、近年僕にまつわるデザインのことは全て担当してくれている。
マネージャーの山口響子さんは、この作品のために共に「灯台」レーベルを立ち上げ、スティルライフ制作期間中から毎日のように楽曲の感想・アドバイスをくれ、風通しのよい距離感で励ましてくれた。曲順や曲間、マスタリングに関しても細部まで共に考えてくれて、まさに二人三脚で作り上げた感覚がある。
発売にまつわる全ての作業に全力を尽くしてくれた。響子さんがいなければスティルライフは完成しなかっただろう。
ソロピアノ作品だけれど、さまざまな人との関わりでこの作品が作られ、世に出ているのだ。
このように丁寧なものづくりが出来た環境をありがたく思う。
スティルライフにまつわる運命の流れに感謝したい。
haruka nakamura