「tague dava」ミロコマチコ × haruka nakamura
その小さな身体の中には、嵐で荒れ狂う海があり、深く青い森があり、そこではケモノたちがウヌウヌと蠢いていて、天からヌッと何かが手を伸ばしている。
僕にはそう見えている。
そして声が聴こえてくる。
もっと自由にさせてよ。もっともっと。
多くは語らない、あの猫目を見ていると菩薩さまと目が合った時みたいに全てを見透かされているようで、それでいて、なーんにも考えてないようで。
なんて不可思議なエネルギーなんだろう。
この子の中にある「世界」を全て解き放つ音楽をぶつけ続けたい。思いっきり循環したい。
初めてセッションした時、得体の知れない大きな存在を懸命に描き続ける小さな背中を見つめながら、ふつふつと思っていた。
そしていつの間にか叫んでいた。
毎回、絵が完成するまで完全即興・ノンストップでのぶつかり合い。打ち合わせもリハーサルも無く、僕らは何度も真剣に真正面から混ざり合った。
楽譜があったり、何かを事前に用意したり、その時に自分達がやりたい音楽をやっているわけではない。あの子に弾かされているのだ。
あの子が奏でて、僕らが描いてるのだ。
一つの環となりて。
絵が完成に近づいた状態からいきなりマチコが全てをちぎり破ったこともあった。そして、その切れ端たちから新たな絵を瞬く間に産み出した。
あの高揚。思い出しても身震いする。
時に喜び合い、時に苦しいトンネルを抜けて、また命が芽吹いて。
マチコとセッションしてると、怒涛の流れの中で笑いが込み上げてきて、それと同時に涙が流れそうになることもある。
同時にそれらがやってくる。
瞬間、瞬間。
「いま」の連続。
それを捉え、手放し。
次元を共に超えていく感覚。
踊り続けたい。音楽は僕が止めない。
なんて得難い遊び相手なんだろう。
セッションをしている時、僕らは子供に還る。
日が暮れても遊び続けたい。
まだまだ、遊び足りない。
これは2020年までに、僕らが混ざり合ったアソベの記録である。
*アソベ - アイヌ語で火を噴く山の意
haruka nakamura
ミロコマチコ×haruka nakamura のライブペインティングを収録したDVD「tague dava」。
※「tague dava」(たげだば)とは、haruka nakamuraの故郷・青森の津軽弁で「最上級・ものすごい」の意味
ミロコマチコとharuka nakamuraが、共に「何か」を求めて、それぞれ天から授かったと絵と音で折り重なる。躍動、慈しみ。
監督・井手内創の映像は、インタビューも交えつつ、見事にその感動を美しく、ありのままに目の前に切り出し、私たちの心に深く刻みこむ作品となった。
本作品は、朝日新聞社主催の全国巡回美術展「ミロコマチコ いきものたちはわたしのかがみ」(2020-2022)の開催を記念して、数年に渡りコラボレーションしてきたミロコマチコと音楽家・haruka nakamuraのライブペインティングの様子を、会場の熱気と高揚そのままに映像化。(※本展の宇都宮会場にて開催されたライブペインティングは未収録)
ミロコマチコ(1981ー)は、デビュー絵本『オオカミがとぶひ』(2012年、イーストプレス)が「第18回日本絵本賞大賞」を受賞し、まさに彗星のごとく出版業界に登場した。
その後も、国内外の絵本賞や文芸賞をたて続けに受賞し、新作が常に期待される絵本作家のひとり。いっぽうで、画面いっぱいに生物や植物をのびのびと描いた作風で知られ、画家としての活躍にも注目が集まっている。
二人の創作者の想いが交錯するドキュメンタリー映像と対談インタビューも収録。
音楽家・haruka nakamuraという存在を媒介にして、奄美大島に暮らし、日々変化をとげていくミロコマチコの今を、美しい風景とともに切り取る。
DVD (収録時間:約45分)
絵:ミロコマチコ
音楽:haruka nakamura
監督・撮影・編集:井手内創
デザイン:狩野麻梨奈
スチール撮影:向後真孝
企画・販売元:朝日新聞社