unuunu
「unuunu」
(LIVE PAINTING at kadensya, TOKYO 2018)
mirocomachiko × haruka nakamura
配信リリース
ミロコマチコとの記念碑的な2018年の新宿公演。
配信リリースとなりました。
この回はミロコマチコと僕の旅路の中でも、ターニング・ポイントとなった回です。
この後から現在に続く「海を混ぜる」シリーズでは僕らの一対一、もしくは原田郁子さん、青葉市子さんなどゲストも少人数に絞られることが多くなりましたが、この回までは、かつてのピアノ・アンサンブルの様に毎回多数でのアンサンブルを組んでマチコとのLIVE PAINTINGに臨んでいました。
これは、その最後の記録です。
マチコとの演奏は毎回、ノンストップ・完全即興です。
こうしたアンサンブル編成での完全即興では僕が即興作曲するピアノの上でメンバーに自由に羽ばたいてアドリブ演奏をしてもらう形が主軸でしたが、この回はそれぞれ活躍している個性的なメンバーが揃っており、演奏前にあるメッセージを託していました。
本番前をよく覚えています。
この時期、僕はマチコのことを、何かこの世のものでないものをその場に降ろしてくる巫女のような存在に感じていました。
奄美大島に住んでからそのエネルギーはさらに大きなものになり、絵から立ち現れる存在も、それまでの動物的なものから神話的なものへと、目に見えて変化してきました。
今は僕も北海道に住み、お互いの海を混ぜているという段階なのですが。
ですから、
「神事における神楽のようなイメージ」
で演奏しようと、会場となった新宿体育館の裏でメンバーそれぞれにコンセプトを伝えました。
「チャンス・オペレーション」という即興の一つの手法があります。
演奏中に僕の指示があった場合は、ある意図の演奏をして欲しいと、事前に説明してありました。
一人には民謡アカペラを、一人にはエレキギターでのコード進行の委託を、一人には起爆材となる民族的な歌のアプローチを。
2018年。
今思えば、僕はわりにこの回は、それまでのマチコとの集大成となるような想いを持って望んでいました。
2017年にピアノアンサンブルが終わり、次に進むための想いがここに少し現れているようにも思います。
全身のエネルギーを賭した演奏により、結果的に何本かのピアノ線が切れてしまいました。申し訳ない。
この演奏は我々のドキュメンタリー映像作品「tague dava」に使用されDVD発売されていますが、今回配信リリースとして、各セクションに分けて音楽のみで発表します。
なぜこのタイミングなのか。
それは2022年現在、マチコと行なっている「海を混ぜる」シリーズが横須賀美術館の原田郁子さんとの回でクライマックスを迎え、今まさに終わりと始まりの土地、奄美大島に向かっているからです。
願わくば、これからそれを見届ける人にも、その道のスタート地点でもあったような、この印象的な回を辿ってほしいと思いました。
タイトルは全て、僕の故郷・青森の津軽弁です。
自己解釈で勝手ながらネーミングさせてもらいました。
では、ここから僕も久しぶりに音源を聴きつつ、その時の演奏を振り返ります。
2018.11.14 東京・新宿花伝舎 体育館 「unuunu」/ live paiting 2018 mirocomachiko × haruka nakamura
絵:ミロコマチコ
演奏 : ピアノ、声、マイクロコルグ、民族楽器など:haruka nakamura
うた:baobab(maika、松本未來) & LUCA
打楽器:ISAO
エレキギター:田辺玄
アンビエントギター:青木隼人
音響/録音:福岡功訓(Fly sound) &会場にいたこどもたちの声
主催・企画:noie.cc
・イントロダクションとしての
querdo
waya dava
ここまでは物語の起こり。
それまででは珍しく、ピアノからではなく田辺玄のエレキギターが先陣を切ってくれて心強かった記憶。
まだ彼とのユニット・orbeも始まる前ですが、この頃からエンジニアだけでなく演奏にも参加してもらい始めていました。相棒としての頼り甲斐があります。
このセクションの状況としては、まだ青木隼人さんのアンビエント・弓の演奏がISAOのリズムと呼応し、これから始まるぞという予兆の時間。
この時間はマチコもまだ色を作ったり、純白のキャンバスに何が生まれるかわからない期待感と、不安感が同居している時間。
マチコが動き出すのに合わせて途中からドラムがフリーで演奏し始め、ギター、ピアノが崩しに拍車をかけます。
無調で、ややフリー・ジャズ的な演奏です。
「くるど」「ワヤダバ」
物凄いものがやってくるぞ、という意味。
・一つ目のうねり
tague dava
フリー・ジャズのセクションからなだれ込むように
ピアノの超低音で押し切る、闇から何者かが降り立ってくる世界観へ。
ここからはマチコも踊り出し、瞬く間にキャンバスに色彩が彩られていきます。
僕はここから本格的にピアノでイニシアチブを取って弾きだします。即興的に作曲を行います。
民謡的なピアノメロディとユニゾンして声も出していますね。
そこに三人の歌声も重なっていきます。
どんどん内圧が高まり、やがて到達点へ向かいます。
ドキュメンタリーでも話していましたが、いずれくるその臨界点に向かって皆が一つになっていく様が現れています。この辺はある種の怖さ、これから産まれゆくものへの畏れもあるので、会場では泣き出す子供も多くいましたが、怖がらせて申し訳ないけれど、生き物を産み出すには通るべき過程です。
最後には多幸感あふれる完結へ辿り着くから大丈夫、ついて来て。という心持ちで進んでいきます。
5:18からの打鍵の連打。
ここで、早くもピアノ線が一本切れます。
これほど荒々しい連打を行ったのは、後にも先にもこのライブだけです。マチコの野生に呼応しました。
リズミカルで、一定のテンポが浮かび上がりますが、ISAOのドラム、玄のギターとは、かなり距離があったのと僕はモニターも小さくしていたので、お互いの音はほとんど聴こえていません。
各自の信頼に任せました。
スピードを増していくピアノ、ドラム、ギターに乗って高まり、絡み合い、やがて咆哮となる歌の三人の高揚が最高ですね。野生の証明です。
絵の具まみれで踊りながら描いているマチコを想像してください。
「タゲダバ」
タゲとは、物凄いの最上級です。
・二つ目の大きな波
yaben dava
tague davaの波では飽き足らず、さらにもう一つの大きな波がきます。
マチコはこの辺りで早くも一つの絵を完全に描き上げましたが、なんとそのキャンバスの絵を全て破りちぎっていきます。
その時の高揚とエモーショナルが現れています。
バンドサウンドが幾らロックに盛り上がっても、淡々と神楽の様にコーラスをする3人に拍手。
maikaとLUCAが絡み合い、未來が献身的に支えてくれています。
「ヤベンダバ」その名の通りの状況です。
フォルテッシモの限界を超えて二本目のピアノ線が切れます。(すみません)
ピアノでコード進行やメロディをその場で作曲しながら担い土台を作り、メンバー全員にそれに自由に乗って、思うさま謳歌してもらう、ピアノアンサンブル時代からの僕の好きだった基本的なスタイルです。
・UDA / AZUMASHI / IGATTA / HEVA MADA
ここでチャンス・オペレーションを行い、UDA(うた)のLUCAのアカペラ民謡で静寂の時間、AZUMASHI(あずましい、心地よいという意味)からはエレキギターの玄に進行を任せました。IGATTA(いがった・よかったね、多幸感への帰結)から僕はマイクロコルグでコード進行を、この辺で、一度バラバラに千切られた絵は、いつの間にかほとんど完成しています。
中盤まできて完全に解体をした絵を、切れ端を使って再構築するその脅威的なマチコのスピード。
会場にたくさんいた子供たちも、いてもいられなくなったのか演奏に加わり、走り回り、彼らは自発的に僕のマイクの前に来て歌い、周りの鈴やベルの小物を使って自由に演奏して音楽に加わります。
それは最高の時間でした。
HEVA MADA(へばまだ・さようならという意味)
では、チャンスオペレーションでもう一度エレキギター玄にメインに立ってもらい、ラストへの多幸感を持って終焉へ。
あの日の新宿体育館の軌跡がここで集約されます。
この旅はそれから現在も続き、マチコの暮らす奄美大島へと向かっています。
2022年、夏
haruka nakamura
unuunu (LIVE PAINTING at kadensya, TOKYO 2018)
mirocomachiko × haruka nakamura
音源ミックス:福岡功訓(Fly sound)
写真:井手内創
字:ミロコマチコ
design : suzuki takahisa(16 Design Institute)
制作:山口響子(one cushion,INC)
2016年より、画家ミロコマチコと音楽家haruka nakamuraが数年に渡り続けているLIVE PAINTING。 二人の足跡を追ったドキュメンタリーDVD「tague dava」に使用された2018年新宿公演の音源をリマスタリング・配信限定リリース。 「unuunu」とは津軽弁で「蠢く」という意味である。
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*音楽を聴いて気になった方は、ドキュメンタリー作品「tague dava」も是非ご覧ください
tague dava / ミロコマチコ×haruka nakamura ライブペインディング (DVD) | haruka nakamura
https://shop.harukanakamura.com/items/36352542