音楽のある風景
"PIANO ENSEMBLE"は2nd album「twilight」を制作したことがきっかけで生まれた。
正確に言えば、ARAKI Shinさんがトワイライト参加時のアプローチで試みた重奏ホーン・アレンジをライブで再現しようとしたsonorium演奏会がきっかけだった。
荒木さんは僕が出会った現代の音楽家で最もインテリジェンスに溢れ、狂気に近い哲学の拘り、抜群のセンスとアンサンブルへの慈愛を併せ持つ素晴らしいアーティストだと敬意を表しているのだけど、彼の音を再現するのはそれこそ至難の業でもあった。
ソプラノサックス内田輝、バイオリン根本理恵、そしてドラムのイサオ。
それぞれが全く関わりのない音楽活動をしていた孤高なメンバー達は、sonoriumで初めて邂逅し、一言も会話せず、お世辞にも溶け合ってるとは言えず、演奏でもリハーサルでもバチバチぶつかり合っていたのに、僕が無理矢理"PIANO ENSEMBLE"と銘打って五人のアンサンブルとして活動を始めた。
なぜか。
それは、その五人が一瞬、混ざった時の爆発が凄まじかったからだ。
そこに僕は光を見た。
この時まで、僕はライブというものをほとんど行っていなかった。
わざわざ"ピアノ"アンサンブルと名付けたのは、幼少で辞めてから逃げていたピアノにもう一度、向き合おうとした志からだった。
まず、トワイライトの楽曲を再現しようとしたが、即興演奏を録音したアルバムだったので、譜面が作られていたのは荒木さんのホーン・アレンジの箇所のみで、ライブでもそれ以上に、譜面の無い即興演奏が行われた。基本となるのは楽曲の主旋律のみ。
僕のピアノとドラムのイサオのほぼ完全即興演奏を土台に、管弦の三名全員が更にアドリブ演奏。
それは後に思えば思う程、物凄い試みだった。
よくやっていたなと思う。
前日はあまり眠れない日々が続いた。
ジャズのマナーのあるアドリブ演奏とも違い、曲を破壊しながら構築していくので、コード進行も、もちろんその場で作られていく。
よくみんなやってくれたと、心から感謝しかない。
誰もゆくさきを知らない。
かと言って完全即興のように全てがフリーなわけではなく、全員が一つの楽曲を「想い」、進行していく。
みんなで一つの生き物になるような。
全員の呼吸を一つにするような。
そして、その生き物は羽ばたいていく。
ゆえに得難いカタルシスが毎回、ライブで生まれた。
そこに聖歌隊CANTUSが加わり、場は益々熱量を上げカオスと化していく。
MCも無く、chikuni照明も最小限の中、お客さんは文字通り唾を飲み込むことすら躊躇する、
限界の突破。究極の緊張感。
僕は感覚的に、ある領域、、それは、自我を完全に失ったような、ピアノそのものになるような。そんな次元に突入しないと、とてもじゃないけれど毎回のライブをやり遂げられなかった。
「明日、僕が弾かないと本当に何も生まれないのだ」という畏れ。最初の一音への魂の寄与。
ここから僕のライブ活動が本格的に始まっていく。
これはその初期衝動のPIANO ENSEMBLE sonorium演奏会でのライブの全てを記録した、純度100パーセントのライブアルバムである。
haruka nakamura
"暗闇の先にある、なにか。
陽は沈み、それを追い求めた。
光への軌跡を記録した106分。
いま、音楽は確かに此処に或る。"
haruka nakamuraが過去4年間に渡り追求し発展させてきたPIANO ENSEMBLE編成のアルバム。
2010年にシンガポールのKITCHEN. LABELからリリースされ、大きな賞賛を浴びたharuka nakamuraの2ndアルバム『twilight』。
そのアルバムに参加したARAKI Shin(サックス、フルート)、内田輝 (サックス)、根本理恵(ヴァイオリン)、齋藤功(ドラム)らで編成された<haruka nakamura PIANO ENSEMBLE>は、過去4年に渡り『twilight』の楽曲や新曲を即興演奏を中心に昇華させながら各地で公演を続けた。ほぼ楽譜の無い、その瞬間に輝き消えていく音たち。ARAKI Shinの素晴らしい管弦アレンジなども加わり、やがてこのPIANO ENSEMBLEはharuka nakamuraの最も主軸な演奏形態となっていった。
そして2014年、その軌跡を集約した公開録音が東京のコンサートホールsonoriumで全3回に渡り行われ、haruka nakamuraの通算4枚目となるアルバム『音楽のある風景』が誕生。賛美歌や宗教音楽への指向とチェンバー・ミュージックをリンクさせたharuka nakamuraの音楽性を完璧に捉えるためには、チャペルや礼拝を彷彿させるその会場での公開録音は絶好のロケーションだったと言えるだろう。haruka nakamuraのピアノが率いるぴたりと息のあったアンサンブルと空間自体の輝くようなソノリティーが融合したパフォーマンスは、クラシックの厳格さにコンテンポラリーな即興演奏をミックスしながら、細部まで美しくエレガントに、心揺さぶるエモーショナルな共鳴を生み出している。本作には『twilight』収録楽曲の再構築ヴァージョン4曲に加え、新曲3曲(「SIN」「四月の装丁」「永遠」)、そしてアルバム初収録となる2曲(「nowhere」「光」)の全9曲が2枚組CDに収録されている。「光」「永遠」では女子聖歌隊CANTUSをフィーチャー。さらにボーナストラック「CALL」のダウンロードクーポンも封入。
TRACKLIST
<DISC 1>
1. 夕べの祈り
2. harmonie du soir
3. dialogo
4. nowhere
5. SIN
6. 四月の装丁
<DISC 2>
1. 音楽のある風景
2. 光
3. 永遠